Vまん、徒然

北の果ての素人ギター弾き、独り言

人間椅子「苦楽~リリース記念ワンマンツアー」@青森Quarter

待ちに待ったという表現が正に相応しい、人間椅子の生ライブ。アルバムが出る度にツアーライブに参加、それを毎回心置きなく堪能出来ていたというのがついこの間までは当たり前のことだったのに、新型コロナウイルスはエンタメ界のすべてを変えてしまった。

規制の中、注意喚起の中、人数制限の中、ファンクラブ会員にさえチケットが行き渡らないという状況の中、更には蔓延防止対策のあおりを受けて福島公演が中止になる中、本当にあのお三方は来てくださるんだろうかという一抹の不安を抱え乍らようやく迎えたその当日であった。

開場前に外で並ぶ光景にさえ懐かしさを覚え感傷的な気持ちになる。顔馴染みの椅子ファンがやはりいつもより少ない。普段とは少し異なる状況ではあるが、間もなく大好きなあのライブが見られるのだという気持ちの高揚は間違いなく、だがそれをあまり外には出さずに、感情を静かに大事にそっと抱えていたという表現が正しい。始まるまでは何があるかわからないところもあるし、頼むから無事に時間を迎えられて問題なく開演してくれという、願いに近い。それは列に並んでいたほかのお客さんも同じであっただろうと察する。

会場内には椅子が並べられている。入場時の検温と手指消毒は当然のこと、特別な注意書きなど無くとも誰も騒ぐでもなく、マナーに則った大人のライブ会場だ。ワンドリンクもいつものアサヒスーパードライは無く、すべてソフトドリンク。ステージ上にはメンバーの方々の機材が並ぶ。スコーピオンズのSEが流れる低照度の客席は、固唾を飲んで今か今かと。

メンバー、登場。「此岸御詠歌」に乗り、一人ずつ出てきて頭を下げる。1曲目は何だろうか。新譜からかな。SEが終わって弾き出されたアルペジオ。「夜明け前」だ。いろんな雑誌のインタビューで和嶋さんはこの歌詞について熱く語っていた。このご時世だからこそ心に響いてくる言葉のひとつひとつが、轟音だが的確なために決してうるさくない演奏の中に放たれてゆく。今回のツアーでは最後の演奏だったという「肉体の亡霊」を挟み、津軽弁でのMC。青森市のかつての繁華街である新町の話、玄米が買いたくて沖館のユニバースまで歩いたという話、ご当地ならではのゆるく楽しいトークに、本当は声を発してはいけないのだが思わずブホッと笑ってしまう箇所が何度もあり、ああ椅子のライブってこれだよな、とそんな遠い昔のことでもないのに懐古するような気持にもなる。地元ならではのリラックス感が出てていいなあと感じたのは、ギターソロの話題を鈴木さんが振った時に、間奏部分をリプライズしてくれる場面があったこと。和嶋さん一人で弾き直すのではなく、3人で一気に。これはライブ中に2回あった。まるでリハーサルの断片を覗けているかのよう。スティーヴィー・レイ・ヴォーンがよくやる、アップで1弦を弾く奏法は、ピックによるアップストロークではなく指でプリングするのだということを移動中の車内で発見したようで、解説付きで何度もやってくれて、ほかの数曲でも曲中で誇張してのけぞり気味になりながら、半分照れたような笑みとともに、嬉々として弾かれていた。

今回の選曲は新譜「苦楽」からの選別が圧倒的に多くセットリストの大半を占め、それこそ新譜発売のツアーたる演目だった。ほかのアルバムからは代表曲を1曲ずつといった感じで、数あるアルバムのうち「桜の森の満開の下」「黄金の夜明け」「踊る一寸法師」「無限の住人」「頽廃芸術展」「二十世紀葬送曲」「怪人二十面相」「修羅囃子」「真夏の世の夢」「未来浪漫派」「此岸礼讃」「萬燈籠」「無頼豊饒」「怪談そして死とエロス」「異次元からの咆哮」からの選曲は無し、という形であった(「無限の住人武闘編」は再発時に「無限の住人」にボーナス収録されているがそれを考慮しないで書いている。「此岸御詠歌」もSEとしての使用なので「萬燈籠」からの抜粋とはしていない)。

これらのことから、わがままなファンとしてはまだまだ物足りない感も否めないけれども、初期~中期の曲もたくさん聴きたいのがあるけれども、だがしかし今回の生ライブはもっと大きい趣旨に基づいたものであるだろうから、体感できたことだけでもありがたき幸せである。世の中の閉塞した状況にメッセージを発信すべく、猟奇的・殺人的・事件的なものは敢えて外したのかなという憶測もしている。
かつてのとおりの素晴らしいライブ演奏。各楽器の爆音が体の芯まで刺さってくるようで、各ボーカルも伸びやかで、今まで椅子で椅子のライブを体感したことは皆無であるけれども、座ってじっくり演奏を観戦するのも悪くない。精一杯の拍手で表現される歓喜も悪くない。客席のヤジから発展してゆく面白いMCもたまにあったりするので、また発声を制限されない時が来るまで期待して待っていたい。

ライブ本編の最後の曲の前。「人面瘡」のエンディングのあと、楽器の音が残る中、鈴木さんのMC。上手く聞き取れなかったのだが、斜め後ろのお姉さまがスックと立ちあがったのを感じて、察した。そうか、最後は立って観てもいいって言ってくださったんだな。いつも通りの曲振りMC、「最後にいっぱーつ、針の山」。シンプルで力強い70年代の名ギターリフがドラムとベースを呼び込み、音の束になり、塊になり、太く真っすぐなベクトルで総立ちの客席に突進する。客席は、声は出せずとも立ち上がって、腕を上げ頭振り髪乱し息切らす、文字通り何かの逆襲のようだ。互いにフィードバックし合って相乗で高まりゆく、凄まじいまでの一体感だった。ライブだ。これこそがライブだ。素晴らしい。本当に素晴らしいパフォーマンス。ありがとう。こみあげてくるものを抑え切れなかった。
アンコール。おそらく対策のためもあり、1回のみ、2曲。恐怖だがコミカルでシンプルな、鈴木さんならではの作風の「恐怖!!ふじつぼ人間」から、和嶋さんの才能を世界に知らしめるきっかけとなった「無情のスキャット」で〆。ちなみにこの日はノブさんのお誕生日だということで、ケーキを使ったサプライズも。

ああ、終わってしまった...という強烈な寂莫感に襲われたのが正直なところではあったが、きっとまた来てくれるだろうという確信と、まだまだこれからもやってくれるだろうという期待と、この世の中はまた立ち直れるはずだという大きな連帯感に満たされていた。

なによりも、日本が、青森が誇るロックバンド「人間椅子」への愛と感謝を。効果覿面な音のワクチンを注入してもらって、かつての日常にひとつ戻れたような気がした。

音楽の力って凄い。エンタメこそ、心豊かに生きていくために不可欠なものだ。

 

 

人間椅子「苦楽~リリース記念ワンマンツアー」@青森Quarter
2021年9月20日(月)

夜明け前
肉体の亡霊
杜子春
宇宙海賊
無限の住人 武闘編
洗礼
見知らぬ世界
人間ロボット
恍惚の蟷螂
疾れGT
もっと光を!
至上の唇
人面瘡
針の山
(en)
恐怖!!ふじつぼ人間
無情のスキャット

 

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