Vまん、徒然

北の果ての素人ギター弾き、独り言

人間椅子 22nd Al 「苦楽」

このコロナ禍を逆手に、じっくり作りこまれたアルバムという印象。綿密に、緻密に練り上げられた、詞と曲と構成とアレンジそして演奏と歌。今までどおりにサウンドは重く硬く、だけどどこかに希望を見出せというポジティブな命令と指令を感じる。綴られた言葉もかなり深みがあり、今まで以上にしっかり噛み砕いて聴きたい、じっくり堪能しなければ失礼に当る、そう思わせるぐらいの名盤である。


1.杜子春
 先行でMVも公開された今回のリードトラック。パッと聴いた感じはブライトだったけど、聴き込むほどに重さが増してくる。人間椅子得意のテンポに乗るシンプルなリフの繰り返しが、麻薬のように身体に染み込んで来る。修羅場の様を表すかのような間奏部分が鬼気迫る。エンディングでは希望を見出す光が差し込んでくるかのようだ。1音半下げのローチューニング。

2.神々の行進
 研ちゃんのカラーとも言うべき3連のヘヴィシャッフル。これもローチューニングなのだが、途中で入る掛け声など、どこかに前向きな明るさもある。間奏の銅鑼のシーンではまるで岩戸が開いていくかのよう。70年代丸出しの直球ギターソロ、そしてこの曲でもラストのメロディアスなハモリでじわじわ希望を感じさせつつエンディング。

3.悪魔の処方箋
 3曲目もローチューニング曲。曲中いろんなリフが目くるめく。Youtubeの外国人さんからのコメントで「シンジはリフメイカーだ」というのを最近見たが、まさにその通り。間奏の展開がかっこいい。ドラムサウンドも重く、アタック感が強くて素晴らしい。これはアルバム全編通して言える。

4.暗黒王
 そしてさらにローチューニング。こんなに立て続けにローシリーズが続くのも珍しい。この曲は今回のアルバムで一番好きかな。ドスの効いた研ちゃんの声、アクセントで入る変拍子、地獄の描写が映像で見えてくるようだ。ラストではスピードが上がり、恐怖を抱えたまま奈落へ落ちていくかのようだ。

5.人間ロボット
 「宇宙からの色」や「屋根裏の散歩者」にも通じる、オクターブ上を足した機械的なアッパーファズフレーズが、マーチングスネアに乗って始まる。一糸乱れぬロボットたちの行進。その後スピーディーでストレートな曲調に。シングルノートのリフが「悪魔と接吻」的で、更にはゆったりした中間部の切なさが素晴らしい。機械人間の無機質な悲しさ、銀河鉄道999のラストを連想せずにはいられない。

6.宇宙海賊
 研ちゃんお得意の宇宙シリーズ。ギターのコズミックな効果音も素晴らしい。今の世の中でこんなにシンプルなリフが続く曲があるだろうかというくらいに潔く、しかし3人でボーカルを取り合うアレンジや巧みな展開で飽きさせないのはさすが。サビの部分は「青い衝動」や「地底への逃亡」を彷彿させる。交互に繰り出すテルミンソロとギターソロ。椅子のスペースロックの名曲がまたひとつ産まれた。これもローチューニング。

7.疾れGT
 和嶋さんのバイク好きが講じたであろう疾走する8ビート曲。だけどただ軽快で終わらないのは踏み続けられる2バスの効果で、エンジンのトルクやパワーをその音に感じる。80年代の特撮ヒーローやアニメのOPに合いそうなかっこいい正統派のロック。「地獄のヘビーライダー」と連チャンでやってほしい。

8.世紀末ジンタ
 淡々としたシンプルなリズムの中に印象的なアクセントのサビが来る。中間部ではクリムゾン的な響きも挟みつつ、ドライブするスライドギターソロへ。ラストはいかにも人間椅子といった感じの3連リズムに展開してからの変拍子で締め。「人間ロボット」にも感じたのと同じ、機械的な雰囲気がある。

9.悩みをつき抜けて歓喜に到れ
 苦悩に立ち向かい突き抜けろというベートーベンの名言がタイトルに起用されている。ポジティブな歌詞の中に、このコロナ禍においての和嶋さんのメッセージが込められている。中間部の変拍子は「菊人形の呪い」でも使われていたパターン。サビバックのメロディアスなギターフレーズが感動を呼ぶ。

10.恍惚の蟷螂
 虫好き研ちゃんの真骨頂。雌に食われても恍惚を感じる雄、そこに大人のエロスも垣間見える。頭打ちの曲調が「地獄の球宴」らしくもある。コミカルなところも内包する重いMソング。

11.至上の唇
 研ちゃんがこの歌詞が歌いづらいということでノブさんに歌わせたというこのスピード感のある8ビートは、ド直球の接吻ソング。ノブさんが歌うと不思議と恥ずかしさを感じない。「赤と黒」で披露されたような70年代後半スタイルのハードロック。

12.肉体の亡霊
 ローチューニングのゾンビソング。「月夜の鬼踊り」に似たちょっと跳ねた曲調。中間部はダンサンブルなボ・ディドリー風リズムになるのだが、そこに恐ろしやとか恨めしやという詞が乗ると逆に恐怖を感じるから日本語って不思議だ。ラストのハイテンポな8ビート、リフの中に織り込まれるD(6弦1F)の音が邪悪に効いて、尽きること無く亡霊が蠢き彷徨っているかのようだ。

13.夜明け前
 1曲目の「杜子春」とともにリードトラック候補だったという曲。いろんな人にブラックドッグですか?と聞かれたそうだが、全然そうは感じない。そんなことをいう人はきっと深くZEPを知らないんだろう。長くドラマティックな展開の中に、さまざまなアイデアのリフが詰まっている。間奏部分でのタム多用のフィルはまさに夜明け前の嵐のようでもあるし、差し込む光を思わせるクリーンのアルペジオからの戻りは芸術的ですらある。締めのこの曲もローチューニング。

 

弾いてみた。

https://youtu.be/n3eKn9d8k_s
 

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